東京地方裁判所 平成6年(ワ)13881号 判決
①事件
原告
三和リース株式会社
右代表者代表取締役
古田和正
右訴訟代理人弁護士
古屋亀鶴
同
嶋田雅弘
被告
金田喜代子
主文
一 原告と被告との間において、原告が別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。
二 被告は原告に対し、訴外東観光開発株式会社に対して右ゴルフ会員権の名義を原告に変更する旨の名義変更承認手続をせよ。
三 原告のその余の請求を却下する。
四 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
一 原告と被告との間において、原告が別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。
二 被告は原告に対し、訴外東観光開発株式会社に対して右ゴルフ会員権の名義を原告に、仮に原告の名義変更がなされないうちに右ゴルフ会員権が原告から他に譲渡された場合には、これを取得した第三者名義に、変更する旨の名義変更承認手続をせよ。
三 訴訟費用は被告の負担とする。
第二 事案の概要
本件の争点は、別紙ゴルフ会員権目録記載のゴルフ会員権(以下 本件会員権という)の権利者が被告であるか訴外株式会社アオキ(以下 訴外会社という)であるかである。
一 原告の主張
1 原告は、平成三年六月二七日、訴外会社との間で取引約定書を締結した。
原告は、平成四年二月五日、訴外会社に対して、金五億円を次のような約定で貸し付けた(以下 本件貸金という)。
(一) 弁済期 平成四年五月七日
(二) 利息 年一九パーセント
(三) 遅延損害金 年40.004パーセント
(四) 天引き利息 金二四二〇万五四七九円
2 被告は、訴外会社の原告に対する右債務を担保するために、平成四年六月一日、本件会員権に譲渡担保を設定することを約した。
3 原告と訴外会社は、平成四年五月七日、弁済期を平成四年七月七日を定め、その後、右弁済期を平成四年九月七日を定めたが(利息、損害金は、右に同じ)、訴外会社は、原告に対し、金一五八七万六七一二円及び金一六一三万六九八六円を支払った。
4 原告は、平成五年一月一三日、他の担保権を実行して金一六四四万円の弁済を受けた。訴外会社の原告に対する右同日現在の本件貸金の残元金は四億七三九五万〇六〇一円及び残損害金は金四五四九万八二〇一円である(利息制限法所定の計算による)。
二 被告の主張
本件会員権の名義は被告となっているが、訴外会社が資金を出して購入したもので、真の権利者は訴外会社であるから、原告の被告に対する本訴請求は当事者を異にしており失当である。
第三 判断
一 証人小和田克人の証言、甲第一ないし第七号証によると、原告は、平成元年七月二七日、訴外会社との間で、基本取引約定書(甲第一号証)を取り交わし、その後、平成三年六月二七日には取引約定書(甲第二号証)を取り交わしたこと、原告は、平成四年二月五日、訴外会社に対して本件貸金の実行をしたこと、取引約定書に定める取引によって原告に対して訴外会社が現在及び将来負担する一切の債務の根担保として本件会員権が差し入れられたこと(甲第三号証)、原告は、訴外会社の従業員である森木から被告作成名義のゴルフ会員権担保差入証、本件会員権、印鑑登録証明書、委任状(甲第三ないし第七号証)の交付を受けたこと、被告は、その後も、原告に対して、三か月毎に被告の印鑑登録証明書を差替えを継続していたこと、高坂カントリークラブは被告が右ゴルフクラブの会員であることを認め、被告もその会員としてプレーをしていたことの各事実が認められる。
右事実によると、被告及び高坂カントリークラブは、被告自身が右ゴルフクラブの会員であるとして対応をしていたことが認められ、そうであるとすれば、本件会員権の権利者は被告であると解するのが相当である。又、右ゴルフクラブにおいて会員として現にプレーをする等している本件会員権について、被告が、本件会員権の譲渡や担保設定に必要な一切の書類を原告のために提供交付しており、その後も、担保権の実行確保に必要な印鑑証明書の差替えを継続していることに照すと、被告自身の承諾のもとに本件会員権に本件根担保が設定されたものであると認められ、訴外会社の従業員が、原告との本件担保設定に関する事務的な処理を現実に行っており、被告が自ら原告との右対応を行った形跡が存しないという事実を勘案しても、被告が権利者である本件会員権に本件根担保が設定されたとする前記認定を覆すことはできないし、他に被告の主張を認めるべき証拠も存しない。
二 ところで、原告は、仮に原告の名義変更がなされないうちに右ゴルフ会員権が原告から他に譲渡された場合には、これを取得した第三者名義に変更する旨の名義変更承認手続を求める。
原告は、本件訴状送達によって訴外会社に対する貸金債務の弁済に代えて、本件会員権を取得する旨の通知をしたことに伴って本件の根担保関係も消滅し、被告は、本件会員権に基づいて本件債務を弁済してその回復を図る機能を確定的に失い、原告は、これを第三者に対して処分する権限を取得するに至ったものと認められ、これに伴って、被告は、原則として、譲渡担保権者の換価処分により将来本件会員権を取得した第三者のために名義書換を得るための手続に協力する義務を負担するに至るというべきであるところ、本件においては、原告が、被告のゴルフ会員権担保差入証、本件会員権、印鑑登録証明書、委任状(甲第三ないし第七号証)の交付を受けているという本件契約関係に鑑みると、被告は、原告が、本件会員権を第三者へ売却する等して譲渡した場合には、これに伴う名義書換の承認を得るための手続に協力することを予め承諾し、それに必要な書類の交付をして、その権限を原告に付与したものと認められるが、本件において、原告は、未だ第三者に対して本件会員権を譲渡しておらず、被告の第三者のためにするべき名義書換に関する義務は、現在する具体的な法的義務として明確に措定されていないのであって、右請求の基礎となる権利関係を確定することができないので、本件においては、将来の請求を現在の請求において求める利益はないといわざるを得ない。この点、本件会員権については担保として取得したもので第三者に売却し譲渡することが前提となっており、将来原告が第三者に対して譲渡した場合、いったん原告に名義変更をした上で第三者のために名義変更することは、名義書換のための書換手数料等の費用の支出を余儀なくされる等担保に供した利益が損われるのみならず、円滑に譲渡することができない畏れがあるので、かかる危惧を避けるために予め名義書換を求める利益があるものと解されないではないが、これが、将来の意思表示を求める法的な利益と解することはできないし、本件においては、右将来の請求を予め請求するべき具体的な事由や必要性も存しないので、この点に関する原告の請求は採用できない。
三 よって、原告の被告に対する本訴請求は右の限度で理由があるので、主文のとおり判決する。
(裁判官星野雅紀)